ArcGIS Image Server は ArcGIS Enterprise の一部で、分散コンピューティングとストレージ システムを提供し、画像、標高データ、ラスター、その他のリモート感知データの大規模なコレクションを解析処理および利用する機能を備えています。
ArcGIS Image Server を使用すると、さまざまなセンサー、ソース、期間から取得した重なり合うマルチ解像度の画像とラスター データの大規模なコレクションを収集、処理、解析、管理することができます。また、ダイナミック イメージ サービスを公開して、ソース画像や他のラスター データを複数の画像プロダクトにオンデマンドで変換できます。このとき、データまたはストアの中間結果を前処理する必要はなく、時間とコンピューター リソースを節約できます。さらに、ArcGIS Image Server は、複数のコンピューターとインスタンスでの並列処理と分散ストレージを使用して、大規模なラスター解析タスクを高速に実行できます。
ArcGIS Image Server は、大量の画像とラスターを操作するために、4 つの主要機能を提供します。
- ダイナミック イメージ サービスは Web からアクセスできるイメージ レイヤーを実現し、デスクトップ、Web、モバイル アプリケーションを介してデータにアクセスするときにリアルタイムで処理を行います。
- ラスター解析を使用すると、画像とラスター データの大規模なコレクションを迅速に処理および保持して、新しい情報成果物を作成できます。
- オルソ マッピングは、衛星、航空、ドローン画像を、マップの作成や詳細な解析の基盤となる数値地形モデルとオルソモザイクにするサーバー側の処理を実現します。この機能には、ArcGIS Enterprise に付属する ArcGIS Ortho Maker Web アプリケーションまたは提供されている API を使用して、ArcGIS Pro からアクセスできます。
- 画像ホスティングを利用すると、組織内のユーザーが画像を ArcGIS Enterprise にアップロードできます。これを、ダイナミック イメージ レイヤーとして利用して、さままざまアプリケーションからアクセスし、ラスター解析に使用することができます。
ArcGIS Image Server の利点とメリット
ArcGIS Image Server を使用すると、大きな画像とラスター コレクションを効果的かつ効率的に利用できます。ダイナミック イメージ サービスを公開して、リアルタイムのモザイク処理と解析処理を通じて情報にアクセスできます。ArcGIS Image Server は、大規模なラスター解析タスクの処理時間も削減するため、ラスター データから有用な情報を迅速に抽出できます。
ArcGIS Image Server では、次のメリットを利用できます。
- 画像とラスター データにすばやくアクセス - ArcGIS Image Server は、大量の画像コレクションの管理、モザイク データセット内への編纂、ダイナミック イメージ サービスを通じた提供に役立ちます。イメージ サービスには、ArcGIS Pro、Web マップ クライアント、その他のデスクトップ、Web、モバイル アプリでアクセスできます。このように保有画像にアクセスできるようにすることで、組織全体のユーザーが、画像とラスター データを画像探索、解析、マップ作成のワークフローに適用できるようになります。
- 複数のソースと形式の画像の結合 - ArcGIS Image Server を使用すると、複数のデバイス、センサー、解像度、バンド、ラスター形式の、異なる期間の重なり合うすべての画像を 1 つのイメージ サービスに結合できます。たとえば、広大な範囲の衛星画像を特定の対象地域のドローン画像とブレンドできます。また、オルソ マッピング機能を使用して、数値地形モデルやオルソモザイクなどのプロダクトを作成することもできます。
- 画像の高速なリアルタイム処理 - ArcGIS Image Server を使用して公開されたダイナミック イメージ サービスは、必要な画像に迅速かつ簡単にアクセスできる柔軟性を提供します。ダイナミック イメージ サービスは、画像への要求に合わせて、すばやくオルソ補正、モザイク処理、投影変換します。つまり、前処理されたデータを格納および保持しないで、1 つのソースから複数の画像プロダクトをオンデマンドで作成できます。処理する画像に対する関数やパラメーターは変更することができ、画像を移動およびズームすると結果がリアルタイムに表示されます。
- 取得から利用までの時間の短縮 - ArcGIS Image Server を使用すると、画像をイメージ カタログにいつでも追加して、イメージ サービスで即座に表示できます。画像データの収集と公開の処理に遅延がなくなるため、新しい画像をより迅速に利用可能にして、イメージ サービスを最新に保つことができます。
- 大きなデータセットの解析の高速化 - ArcGIS Image Server は、複数のサーバー コアとコンピューターで処理の負荷を分散して、大きなデータセットに対する解析タスクを高速化します。この処理の効率性により、要求の厳しい運用環境で、大量のデータセットから有用な情報成果物をより実用的に生成することができます。たとえば、ArcGIS Image Server は、これまではスーパー コンピューターでのみ可能だった大きなテレイン データセットの解析を実行できます。
主要機能
ArcGIS Image Server の主要機能には、ダイナミック イメージ サービス、ラスター解析、オルソ マッピングなどがあります。これらの機能について、以下で詳しく説明します。
ダイナミック イメージ サービス
組織のユーザーがイメージ サービスでのレイヤーの表示設定と振舞いを動的に変更できるように、イメージ サービスを設定できます。これにより、ユーザーとイメージ レイヤー間の操作を拡張することができます。
モザイク データセットはソース データを参照して処理を定義
ダイナミック イメージ サービスは、ファイルまたはエンタープライズ モザイク データセットから利用されます。モザイク データセットは、オンプレミスまたはクラウドに保存された画像を参照し、データにアクセスする際に適用されるすべての画像処理とメタデータを定義します。この処理は、抽出する指定したバンドの定義やスペクトル指標の作成と同様に単純にできますが、センサー モデルと数値地形モデルに基づく画像のパンシャープンやオルソ補正などの処理を加えることもできます。幅広い処理関数が利用できます。関数は、Python ラスター関数を使用して拡張したり、連結して幅広い画像処理と解析タスクを実行したりできます。クラウド インフラストラクチャで作業している場合、Amazon Relational Database Service (RDS) for PostgreSQL などのデータベース サービスを使用できます。
広範な Web サービス
イメージ サービスは、ArcGIS イメージ サービス、または OGC WMS、WCS、WMTS および KML サービスとしてアクセスできます。OGC Web サービスを通じてアクセスできる機能は、それぞれの仕様によって定義されます。
リアルタイム処理
クライアント アプリケーションは、モザイク データセットで定義されたラスター関数やクライアント アプリケーションで定義された追加処理に従って処理された画像にアクセスできます。これらの処理は、個々のラスターやモザイク処理された画像に適用できます。ArcGIS Image Server は、ArcGIS Pro、ArcGIS Image Analyst、および ArcGIS Spatial Analyst エクステンション で利用できるすべてのラスター関数をサポートしています。NumPy 配列または豊富なサードパーティ製のライブラリを利用できるカスタムの Python 関数を ArcGIS Image Server で定義することもできます。
柔軟なデータ ソース
イメージ サービスは、モザイク データセット内に定義されたラスターを参照したり、1 つのラスターを直接参照したりできます。ラスターは、ラスター データ ストアやラスター プロキシを使用して、NAS や SAN など、サーバーがアクセスできるストレージ上に保存できます。
ラスター データ ストアは、適切な認証情報を使用して定義されたファイルまたはクラウド ストレージへの接続で、ArcGIS Image Server サイトでラスターを読み書きできるようにします。サポートされているラスター データ ストアには、Amazon Simple Storage Service (S3)、Microsoft Azure Blob ストレージ、および Alibaba Cloud Object Storage Service (OSS) などがあります。ラスター データ ストアは、アクセスを高速化するために、データのローカル キャッシュを含めるように設定できます。
ラスター プロキシは、複数のストレージ システムに接続する別の方法です。これは ArcGIS Image Server がローカル ファイルと認識する小さな xml ファイルですが、ラスター プロキシはクラウド ストレージ内の画像を参照し、ローカル キャッシュ機能を提供します。
ダイナミック イメージ サービスのタイプ
2 つの形式のダイナミック イメージ サービスを利用できます。これには、以下のようなものがあります。
- 専用インスタンスのイメージ サービス。これは、サービスごとに一連の計算処理が設定されます。専用インスタンスのイメージ サービスは、限られたサービスのセットに多くのユーザーがアクセスすると思われる場合に便利です。
- 共有インスタンスのイメージ サービスは、多くのサービスが計算処理のプールを共有できるラスター レンダリング サービスを使用します。これにより、より限られたリソースから多くの異なるサービスを提供できます。共有インスタンスのイメージ サービスを使用すると、別々のサービスを定義する多くのイメージ レイヤー アイテムを ArcGIS Enterprise ポータルに含めることができます。このとき、ArcGIS Image Server サイトがリソースを各サービスに割り当てる必要はありません。
イメージ レイヤー アイテム
イメージ サービスは、ポータル内でイメージ レイヤーとして公開されます。これは他のポータル アイテムと同様に、グループで共有して、アクセス制御機能を提供できます。ポータル アイテムとサービスは、アイテムにアクセスするクライアントに、基になるサービスへ直接アクセスするための認証情報を提供するように、フェデレートされます。
また、イメージ サービス アイテムを ArcGIS Online のアイテムとして登録することもできます。これらのサービスは、ArcGIS Online とフェデートすることも、フェデレートしないこともできます。イメージ サービスをフェデレートした場合、クライアントがイメージ レイヤー アイテムにアクセスすると、イメージ サービスに直接アクセスするトークンがクライアント アプリケーションに返されて、サービスに直接アクセスできるようになります。フェデレートされていないサービスの場合、ArcGIS Online はプロキシ サーバーとして機能して、クライアント アプリケーションが認証情報にアクセスできないように、保存されている認証情報を使用してリクエストをサーバーに渡します。
ラスター解析
ラスター解析は、ArcGIS Image Server で利用できる一連のサービスです。これは、分散処理とストレージによって、画像解析を実行したり新しいラスター プロダクトを保持したりできます。ラスター解析を使用すると、ArcGIS Pro とエクステンションで提供されるラスター処理ツールと関数をラスター データの大規模なコレクションに適用できます。結果は、ポータルを通じてイメージ レイヤーとして格納、公開、および組織で共有されます。
ArcGIS Image Server をラスター解析用に構成すると、さまざまなサービスが公開され、Map Viewer、ArcGIS Pro、ArcGIS API for Python から、または ArcGIS REST API を通じてアクセスできます。次のクライアントおよび API で、さまざまなツールと機能にアクセスできます。
- ArcGIS Enterprise ポータルのMap Viewerは、機能カテゴリに整理されたさまざまなツールを提供します。ラスター関数エディターは、画像およびラスター解析の構築と編集ワークフローの視覚的なモデラーを備えた Web インターフェイスを提供します。新しい処理チェーンの作成、処理チェーンの編集、結果のプレビューを行った後に、出力を大きな範囲の新しい画像レイヤーとして保持することができます。
- ArcGIS Pro は、ラスター解析のクライアントとして使用できます。ポータルで定義されたラスター関数チェーンは、出力を [Web イメージ レイヤー] として定義することで、新しい画像レイヤーとして保持できます。
- REST API は、多くの分散しているタスク サービスにアクセスする機能を提供し、これらをアプリケーションに統合できます。ラスター関数を使用したサーバー側の処理にも REST を介してアクセス可能で、多くのラスター関数オブジェクトを利用できます。
オルソ マッピング
オルソ マッピングは、一連のラスター解析サービスです。これを使用して、衛星、航空、ドローン画像を処理して、オルソモザイクと数値標高モデルを作成できます。オルソ マッピング ツールのサーバー バージョンは、ArcGIS Pro で利用できるツールと同じですが、分散処理とストレージを実現し、プロジェクトベースのワークフローをサポートするように最適化されています。これらのツールには、サーバー上で適用されるオルソ マッピング処理を定義する ArcGIS Pro、または ArcGIS Ortho Maker の Web インターフェイスを使用してアクセスするのが最適です。あるいは、ArcGIS API for Python または ArcGIS REST API を使用してツールにアクセスすることもできます。これらのツールを直接利用すると、オルソ マッピング機能を自動化されたカスタム ワークフローに統合することができます。
ArcGIS Ortho Maker
ArcGIS Ortho Maker は、ラスター解析が構成されている場合に、ArcGIS Enterprise の一部として利用できるオルソ マッピング Web アプリケーションです。これは、簡単な Web 操作で、ドローン画像のコレクションを ArcGIS Image Server にアップロードして、数値地形モデルとオルソモザイクに処理できます。コントロールは、ドローンの GPS データ、参照画像から取得されるコントロール ポイントに基づき提供されるか、コントロール ポイント テーブルとして入力され、画像内で計測されます。生成される数値標高モデルとオルソモザイクは、Web イメージ レイヤーとしてアクセスできます。ArcGIS Image Server の一般的なオルソ マッピング機能と同様に、オルソフォトもダイナミック イメージ サービスとしてリアルタイム処理でアクセス可能で、重なり合う画像にアクセスして画像の解析を向上できます。
ホスティング レイヤー アイテム
クライアント アプリケーションは、ラスター データ ストアに格納される画像をアップロードして、イメージ レイヤー アイテムとしてポータルでアクセス可能にできます。ポータルのユーザー インターフェイスを使用して、モザイク処理された画像のコレクションをアップロードして単一の画像を作成したり、別々のイメージ レイヤーとして利用したり、動的なモザイク処理を実現する単一のイメージ レイヤーとして利用したりできます。
ArcGIS Image Server の配置
ArcGIS Image Server は、オンプレミスまたはクラウド インフラストラクチャに実装できます。Amazon Web Services (AWS) および Azure クラウド インフラストラクチャがサポートされ、ArcGIS Enterprise Cloud Builder for Microsoft Azure は ArcGIS Enterprise の一部として利用できます。 インストールは、ArcGIS Enterprise の残りと同じパターンに従います。通常、ポータルと ArcGIS Server が最初にインストールされ、その後に ArcGIS Image Server の役割が一連のサーバーに割り当てられます。これらのイメージ サーバーは、ダイナミック イメージ サービスまたはラスター解析用に構成できます。通常、ダイナミック イメージ サービス (専用および共有インスタンス) は 1 つのサイトで処理され、ラスター解析には別のサイトが使用されるように、それぞれの ArcGIS Image Server サイトが別々に設定されます。
まとめ
ArcGIS Image Server は、画像とラスターに対する大規模な分散処理と解析によって、ラスター解析機能の可能性を開きます。クライアント アプリケーションでは、幅広いラスター ソースとベクター ソースからの入力を使用して、関数の広範なリストによるラスター処理モデルを作成できます。このラスター処理モデルは、ArcGIS Image Server に送信されて、複数のコンピューター上で並列実行され、短時間のうちに完了します。画像処理またはラスター解析の結果は、ポータルに登録済みのイメージ レイヤーおよびフィーチャ レイヤーとして保持されます。