マップ キャッシュを構築する前に、使用するタイル スキーマとキャッシュを構築するのに必要なリソースについて検討することが重要です。また、場合によっては、マップ ドキュメントがタイル スキーマのどの縮尺レベルでも有効になるように、追加の設計作業を行う必要もあります。
大規模なキャッシュの作成には長い時間と多くのリソースが必要になるので、キャッシュの生成に取りかかる前に、想定どおりの結果が得られるようにしておく必要があります。可能であれば、小さいマップ エリアでキャッシュを試験的に構築するか、最初のいくつかのレベルのキャッシュを作成して、期待どおりの画像が表示されることを確認しておきます。
ハードウェアの準備
キャッシュは、GIS または Web サーバー層のコンピューターに格納するか、個別の SAN (ストレージ エリア ネットワーク) デバイスまたは NAS (ネットワーク接続ストレージ) デバイスに格納することができます。リソースに余裕がある場合は、配置されている 1 つ以上のコンピューターをキャッシュの構築および格納のためだけに使用することも検討してください。
デフォルトでは、Windows がファイルを格納できる最小ディスク容量 (クラスター サイズ) は 4KB です。サイズが 4KB 未満のタイルが多数含まれているエクスプロード キャッシュを作成している場合、キャッシュがディスクで使用するサイズは実際のファイルのサイズよりもはるかに大きいことに注意してください。この無駄な領域を最小化するために、コンパクト キャッシュ格納方式を使用します。
キャッシュするマップの設計
紙の地図を作成する場合、その縮尺はただ 1 つです。地図の詳細エリアを示す範囲には、さらに 1 つか 2 つの縮尺が使用されることはあります。縮尺の数が非常に少ない場合であっても、マップの総描 (間引き)、シンボル、およびラベリングを正確に調整することは、通常、困難な作業です。キャッシュされ、コンピューター画面で表示されるマップを作成する際には、マップがすべてのキャッシュ縮尺で判読でき、効果的に使用されるようにする必要もあります。
テンプレートを使用した計画の開始
マルチスケールのマップの例を、ここからダウンロードすることができます。これらの「マップ テンプレート」には、サンプルのマップ ドキュメントが含まれており、これは独自のデータおよび設計ニーズに対応するように変更できます。テンプレートを使用しない場合でも、いくつかのテンプレートをダウンロードし、マップの [コンテンツ] ウィンドウおよびデータセットの構造を検証することで、効果的な複数縮尺のマップを構築する方法を学習できます。
このヘルプ トピックの残りの部分では、テンプレートで適用されているマップ キャッシュの設計原則について説明します。Web アプリで ArcGIS Online、Google マップ、Bing Maps サービスをオーバーレイするマップを設計する場合は、「ArcGIS Online、Google マップ、および Bing Maps をオーバーレイするためのマップの設計」もご参照ください。
縮尺の選択と縮尺依存の設定
ラベルとフィーチャに縮尺依存を適用すると、マップが正しく設計されていることを保証できます。下のサンプルのキャッシュ イメージをご覧ください。マップ上でイメージを拡大表示すると、テキストとシンボルが示す情報の量が増えていくことがわかります。道路の線は太くなり、都市はポイントではなくポリゴンによって表されるようになります。同様に、縮小表示のときに使用されるデータセットは拡大表示すると粗くなりすぎるので、マップがより詳細なデータセットに切り替わります。道路とそれらのラベルはマップを煩雑にするので、最大拡大縮尺のときだけ表示されます。このような縮尺に依存した変化は、マップでより多くの情報を系統的に伝えるのに役立ちます。
マップ上のフィーチャまたはラベルを特定の縮尺でのみ表示したり、縮尺に応じて描画方法を切り替えたりすることが可能です。マップのレイヤーに設定する縮尺依存とタイル スキーマに対して選択する縮尺レベルは、慎重に組み合わせる必要があります。フィーチャに縮尺依存を適用しても、タイル スキーマにそのフィーチャを表示できる縮尺レベルが含まれていなければ、意味がありません。
たとえば、1:2,000 以上に拡大表示したときにフィーチャが表示されるように縮尺範囲の指定を行っている場合、キャッシュの最大縮尺を 1:2,500 に設定すると、それらのフィーチャは表示されなくなります。タイル スキーマに 1:1250 の縮尺を追加すると、フィーチャが表示されるようになります。さらに縮尺を追加したくない場合は、1:3,000 以上に拡大表示したときにフィーチャが表示されるように縮尺範囲の指定を変更できます。
変更できないマップについてキャッシュを作成する場合でも、マップの特性を活かすようにタイル スキーマを設計することが可能です。可能であれば、マップを ArcMap で開き、レイヤー プロパティを調べて、縮尺依存のレイヤーが存在するかどうかと、それらがどの縮尺でレイヤーのオン/オフが切り替わるかを確認します。レイヤーに縮尺依存がある場合は、タイル スキーマにレイヤーを表示できる縮尺レベルを追加することを検討してください。たとえば、レイヤーが 1:150,000 ~ 1:250,000 の縮尺で表示可能に設定されている場合は、タイル スキーマに縮尺として 200,000 を追加すると、キャッシュのレイヤーが表示されるようになります。
座標系の選択
キャッシュするデータ フレームでは、どのような座標系でも使用できます。ただし、キャッシュを別のキャッシュでオーバーレイする場合は、両方のキャッシュで同じ座標系を使用する必要があります。これは、オンライン マップ サービスから取得したタイルでキャッシュをオーバーレイする場合にも当てはまります。ArcGIS Online サービス、Google Maps、および Microsoft Bing Maps はすべて WGS 1984 Web メルカトル (球体補正) 投影座標系を使用します。
レガシー:
10.0 以前のバージョンの ArcGIS Online サービスは WGS 1984 地理座標系を使用していました。これらのサービスは更新されていないため、ArcGIS Online サービスをオーバーレイするために構築する新しいキャッシュは WGS 1984 Web メルカトル (球体補正) を使用する必要があります。
レイヤーの表示の計画
キャッシュ ツールは、マップ サービスのすべてのレイヤーを 1 つのイメージに結合します。このため、レイヤーのオン/オフを設定することはできません。この効果によってキャッシュが高速化します。サーバーにとっては、多くのイメージを取得するよりも、1 つのイメージを取得するほうが高速です。
レガシー:
以前のバージョンの ArcGIS Server で利用可能であった [融合キャッシュ] オプションと [マルチレイヤー キャッシュ] オプションは、バージョン 10.1 で廃止されました。今ではすべてのキャッシュが融合であり、これが実質的にすべてのケースで最高のパフォーマンスを発揮するオプションになっています。
ここで、レイヤーのオン/オフを設定できるようにする方法について説明します。解決策の 1 つは、マップ内で関連するレイヤーをグループ化し、各グループを別のマップ ドキュメントに格納することです。各マップ ドキュメントからマップ サービスを公開し、キャッシュを作成します。
たとえば、銀行、レストラン、美術館、図書館、ショッピング センター、土地区画、道路、河川、市区町村の境界線、湖、公園、および標高のレイヤーが含まれたマップ ドキュメントがあるとします。
ArcMap を使ってドキュメントを表示する場合は、これらのレイヤーのオン/オフを自由に設定することができます。ただし、マップ キャッシュを使ってこのマップを Web 上に公開する場合は、いくつかのレイヤーを組み合わせることをお勧めします。レイヤー リストを調べて、以下の 3 つのグループに論理的に分類し、それぞれのグループからマップ ドキュメントを個別に作成することができます。
マップ ドキュメント 1 (対象ポイント)
- 銀行
- レストラン
- 美術館
- ライブラリ
- ショッピング センター
マップ ドキュメント 2 (文化景観)
- 区画
- 道路
- 公園
- 市区町村の境界線
マップ ドキュメント 3 (物理フィーチャ)
- 河川
- 湖
- 標高
これらのマップ ドキュメントごとに、マップ サービスを使ってキャッシュを作成することができます。どのキャッシュにも必ず同じタイル スキーマを使用してください。そうすれば、3 つのマップ サービスのオーバーレイが可能になります。
物理フィーチャを文化景観と分けて表示する必要がないように思える場合は、マップ ドキュメント 2 および 3 を 1 つのマップ ドキュメントにまとめて、パフォーマンスをさらに向上させることができます。
キャッシュ作成時間
マップ サービスのキャッシュを作成する際、サーバーはキャッシュ作成のために指定されたエリアの全範囲をカバーするマップ イメージを、指定された縮尺レベルごとに描画する必要があります。さらに、キャッシュを保持するために必要なファイルとフォルダー構造も作成する必要があります。
キャッシュを作成するための所要時間は、選択された縮尺レベル、キャッシュの構築に割り当てられたサーバー リソースの量、およびマップ上の情報の密度にも依存します。高性能なサーバーを使用したとしても、大きなキャッシュの生成には数日を要することがあります。多くの場合、キャッシュの作成にかなり時間がかかるとしても、キャッシュを使用することによって得られるパフォーマンス上の利点はそれを上回ります。
注意:
キャッシュの生成に時間がかかることがありますが、サービスがタイム アウトすることを懸念する必要はありません。CachingTools サービスは、非常に長いタイムアウト値を使用します。
縮尺レベル
キャッシュの縮尺レベルを選択する際には、マップを拡大表示すればするほど、マップ範囲をカバーするのに必要なタイルの数が増え、キャッシュの生成に時間がかかることに注意してください。縮尺分母を 2 で割るたびに、マップの矩形エリアをカバーするためのタイルの数が 4 倍になります。たとえば、縮尺が 1:500 の矩形マップに含まれるタイルの数は縮尺が 1:1,000 のマップの 4 倍になり、縮尺が 1:250 の矩形マップに含まれるタイルの数は縮尺が 1:1,000 のマップの 16 倍になります。
キャッシュ内のタイルの数の増え方を把握するには、ArcMap でマップを開きます。幅 256 ピクセル、高さ 256 ピクセルの領域にマップの 1 つのエリアを表示します (このエリアは表示設定によって異なります。おそらく一辺が 2.5 ~ 3.25 インチ [6.35 ~ 8.26 cm] になるでしょう)。これが、デフォルト設定でキャッシュ タイル 1 枚がカバーするエリアです。次に、現在の縮尺の分母を 2 で割ります (たとえば最初に 1:40,000 の縮尺でマップを表示していた場合は、1:20,000 まで拡大表示します)。この縮尺では、同じエリアをカバーするのに 4 つのタイルが必要になります。縮尺分母を再び 2 で割ると、エリアをカバーするのに必要なタイルは 16 個になります。次の表は、元の矩形エリアをカバーするのに必要なタイルの数が、縮尺分母を 2 で割るたびに増えていく様子を示しています。最初の 1:32,000,000 の縮尺では、一辺が 256 ピクセルのタイル 1 つで米国西部のサイズのエリアをカバーできます。
レベル | スケール | タイルの数 |
---|---|---|
第 1 レベル | 1:32,000,000 | 1 タイル |
第 2 レベル | 1:16,000,000 | 4 タイル |
第 3 レベル | 1:8,000,000 | 16 タイル |
第 4 レベル | 1:4,000,000 | 64 タイル |
第 5 レベル | 1:2,000,000 | 256 タイル |
第 6 レベル | 1:1,000,000 | 1,024 タイル |
第 7 レベル | 1:500,000 | 4,096 タイル |
第 8 レベル | 1:250,000 | 16,384 タイル |
第 9 レベル | 1:125,000 | 65,536 タイル |
第 10 レベル | 1:62,500 | 262,144 タイル |
第 11 レベル | 1:31,250 | 1,048,576 タイル |
サーバー リソース
キャッシュを操作するために割り当てられている CachingTools ジオプロセシング サービスのインスタンスの数が多ければ多いほど、キャッシュの生成時間は短縮されます。キャッシュに割り当てるインスタンスの数については、「マップ キャッシュを作成するためのサーバー リソースの割り当て」をご参照ください。
マップ上の情報の密度
キャッシュのサイズとキャッシュを作成するのに必要な時間は、どちらもマップ内の情報量に左右されます。色の変化やパターンの数が多いエリアでは、均一的なエリアよりもファイル サイズの大きいキャッシュ タイルが生成されます。たとえば、高解像度のラスター イメージが使用されているマップでは、通常、タイルのファイル サイズが大きくなります。これは、ディスク上の元の画像サイズが原因ではなく、イメージ ピクセル間の色やパターンの変化が原因です。
同様に、レイヤーの数が多く、ArcMap での描画にかなり時間のかかるマップの場合、一般に、キャッシュの作成にも時間がかかります。これは、サーバーがタイルを作成するときに、縮尺レベルごとにマップの適切なレイヤーを繰り返し描画する必要があるためです。